砂漠に囲まれた地トトーリでは、成人として認められるにはあることを行わなければならない。性別は問われないが、女性でこの儀式に参加するものはまずいない。危険で、筋力が必要な行為だからだ。
今年も、一月の満月の日の深夜に屈強な若者が十人ほど徒党を組んで砂漠へ出て行った。皆、右手に銛を持っている。
皆、全身を防寒着に包み、顔もゴーグルやマスクで隠してはいたが、ほんの少し肌を露出しているところにめがけて砂が当たる。かなり痛いはずだが気にするものはいない。何度も当たって痛みが麻痺していることと、トトーリの住民で砂が吹き付けることに慣れていない者はいないからだ。
この季節の砂漠は寒い。北西の季節風が容赦なく吹き付け、無謀ともいえる参加者の体温を奪い取ろうとしている。砂の痛みに慣れている彼らも、砂漠の寒さには慣れていない。トトーリでは普通冬に戸外を出歩くものではないからだ。おかげで何人かは体をすくめてしまい、俊敏な行動ができそうにない。
町を出て二時間はたっただろうか。一人が左前方に何かが動いたのに気付いた。
「あそこに何かいる!」
一同に緊張が走った。
発見者が砂が動いた場所に向けて銛を投げた。ガツンという音とともに、銛が弾かれた。
「来るぞ!」
現れたのは人と同じような大きさの巨大蟹。銛が当たったのに怒ったのか、一同に向かってまっしぐらに襲い掛かってきた。
蟹を仕留めようと、参加者は皆銛を構え、突き刺そうとするが、体がこわばって思うように動けない。逆に獰猛な蟹に、ある者はハサミで切られ、またある者は足のかぎ爪で傷つけられていく。
しかし多勢に無勢。銛が甲羅の境目に刺さり、蟹の動きが鈍く、攻撃も当たらなくなってきた。
やっと仕留められるかと思われた瞬間、蟹はどこにそのような体力を温存していたのかと思えるほど迅速に逃げ出してしまった。あまりに唐突な動きに、追うことができたものはいなかった。
後に残されたのは、歩けないほどの重傷が二人。他の者も多少なりと怪我を負ったものばかりだった。
トトーリではこの数年、成人として認められたものはいないらしい。
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