最近、19世紀の大英帝国を舞台とした少女小説が増えています。ヴィクトリア朝とその前後の「日の没せざる帝国」が最も繁栄していた時代です。
世界中の富を基盤とした、華やかなる社交界。成り上がりのブルジョワと、旧来からの貴族階級との静かな軋轢。その一方で起きる労働者や植民地の搾取……が少女小説に描かれることは少ないですけどね。
特にこの時代の貴族趣味は、後々も「貴族的なもの」をあらわす記号の基盤になっています。メイドや執事、華やかなパーティーに美しいドレス、観劇、乗馬……etc.
また、この時代はまだ身分格差が大きく、しかし流動は起きているため、労働者・中流階級・上流階級の身分差のある恋愛というのが大変な障害になりがちでした。
説明はこのくらいにして、大英帝国を舞台とした少女小説(一部翻訳・少年レーベルあり)を紹介します。
ヴィクトリアン・ローズ・テーラー(コバルト文庫)
題名が既にヴィクトリア朝。ロンドン郊外にある「薔薇色」は、恋を叶えるドレスを作ると評判の女性専門ドレス仕立屋。店主のクリスと侯爵の息子シャーロックの身分差の恋と、「恋のドレス」に対する「闇のドレス」の存在を背景に、「薔薇色」にドレスを仕立てる依頼をする女性たちの恋物語が描かれています。
伯爵と妖精(コバルト文庫)
これも19世紀ヴィクトリア朝イギリスを舞台としています。ファンタジー。妖精が見える少女リディアは、妖精国の青騎士伯爵を名乗るエドガーの宝探しを手伝ったことをきっかけに、専属の「妖精博士(フェアリードクター)」として雇われることになったのですが、エドガーは隙あればリディアを口説こうとするし、エドガー自身暗い過去と復讐を秘めていて、リディアはそれに巻き込まれていきます。
花咲く丘の小さな貴婦人(コバルト文庫)
日英ハーフとして生まれたエリカは両親を亡くして単身イギリスに渡ったのですが、貴族である祖母は父の結婚やエリカの認知を拒み、仕方なく寄宿の女子校に入ることに。しかしその学校は施設を男子校に間借りしていて肝心の女生徒も片手で足るほど。そんなエリカの奮闘記です。
歓楽の都(ビーンズ文庫)
架空の19世紀ロンドンにある自治都市レーンの別名は「歓楽の都」。『宝石』と呼ばれる女や男を一夜の快楽のために買える都市。そんな『宝石』の一人ショウと、レーンにやってきた謎めいた医師レイの友情以上恋愛未満な関係と、都市の闇に蠢く事件を描いています。ボーイズラブ風味につき注意。最新刊が2年前、続刊が発売日未定状態です。
エノーラ・ホームズの事件簿(ルルル文庫)
ヴィクトリア朝イギリスで最も有名な、というか世界で最も有名な探偵「シャーロック・ホームズ」に年の離れた妹がいた、という設定で描かれる翻訳ヴィクトリアンミステリー。シャーロック・ホームズの活躍は描かれませんが、暴走しがちな少女エノーラの推理力とヴィクトリア朝の風俗がみどころです。
ガーディアン・プリンセス、英国花嫁組曲(コバルト文庫)
19世紀初頭、「摂政時代」と呼ばれたころのイギリス上流階級の話。『ガーディアン・プリンセス』は、「守護王女」と名乗って弱き乙女を助ける侯爵家の一人娘ヴィヴィアンと、大怪盗「男爵」、その正体である成り上がり富豪ジェラルド・ムーアのすれ違いな恋物語(続刊予定)。『英国花嫁組曲』は、同じ時期を舞台とした貴族とは名ばかりで借金ばかりな三姉妹の恋の短編集。
貴族探偵エドワード(ビーンズ文庫)
「大国アングレの首都ロンドラ」ということで、架空の国ということになっていますが明らかにヴィクトリア朝ロンドンがモデルになっています。名門貴族出身のエドワードが趣味が高じて探偵業を営む話。男同士の友情メイン。
カーリー(ファミ通文庫)
少女小説レーベルじゃないし19世紀イギリスじゃないけれど、ヴィクトリア朝好きは気に入ると思う一品です。続刊が出そうにないのが残念。第二次世界大戦前のインドで「ヴィクトリア朝イギリス」が冷凍保存してあるような寄宿女子校を舞台としています。