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『とある飛空士への恋歌』は「『とある飛空士への追憶』の続編」ではない

とある飛空士への恋歌 (ガガガ文庫 い 2-6)

昨年話題になった『とある飛空士への追憶』と同じ世界を扱った『とある飛空士への恋歌』が発売されました。船ではなく飛行機が発達し、大瀑布が海を分ける世界における飛空士の恋物語。

ただし、登場する国家が全然違うこともあって、「本当に同じ世界なの?」などと思ってしまうことも多々あります。作品のテーマも全く違います。「追憶」が「ローマの休日」なら「恋歌」は「ロミオとジュリエット」。物語の背景にある「風の革命」が、革命政府のぐだぐだっぷりを含めてフランス革命をモデルにしてるのも気になってます。まさかナポレオン出ないよな。

著者の犬村小六さんの別作品『レヴィアタンの恋人』は絶賛積読中なのですが、「追憶」と「恋歌」比べる限り、絵になるシーンを書くのがうまいなあ、と思いました。「追憶」だと別れのシーンがすばらしいですし、「恋歌」でも式典の際に主人公カルエルがニナ・ヴィエントに向ける憎しみの視線や、カルエルが出会った少女を自転車に乗せ、その後転倒してしまうシーンなど。この美しさについてはもう「ぜひ読んでください」としか言えません。

「追憶」で、ギャグの一種としか思えないほどドンビキしたファナの美しさ描写みたいなことはありません、大丈夫。昨日Twitterで話題になったんですけど、ファナの描写は特に女性読者に大不評だったみたい。あれは確かに人間の美しさを語ってるように見えませんでしたからね。色とりどりの花や輝く宝石を愛でているような。実際あの時点のファナは花や宝石、美術品と同価値でしかなかったわけですが。というかそこまで考えてあの描写にしたならすごいなあ。

以下、ネタバレにつき注意。致命的なものは避けました。

もうね、騙されましたよ。「追憶」が単巻ものだったんで油断してたら、見事なほどに「シリーズ序章」でした。全然終わってない。初巻に数字ふってないのはライトノベルではよくあることですが、内容紹介に「シリーズスタート」といったことが全く書いてありませんでした。

冒頭にカルエルが抱くニナ・ヴィエントへの憎しみを書き、カルエルが第一皇子カールだった過去、アルバス家に引き取られて養父ミカエルや三姉妹と心の交流を行い、「空飛ぶ島」イスラに行くことになったいきさつ、そして冒頭の時制に戻る、という構成。いわば運命の人となるクレア・クルスとの出会いはさらにその後、ほんのちょっとだけでした。ああ。

クレアはもう運命の人確定なのですが、世話焼き幼馴染の典型的キャラクターといえるアリエルはいい娘ですね。カルエルに面と向かって「ヘタレマザコンナルシスト」と言ってはばからない。暴言を吐きながらも、世間知らずでマザコンな少年の世話をちゃんとやいてる。直情的な反応を示しながらも、実はカルエルの心の重荷をちょっとだけ軽くしてやってくれてます。

折り込みチラシのインタビューによると、今後しばらくキャッキャウフフな学園パートで、後にとんでもない敵が登場して空戦だらけ、らしい。イスラの目的地「空の果て」も気になりますし、「ニナ・ヴィエント」にも秘密がたくさんありそうで、続きが気になってしか他がありません。

ワード

Comments:2

Anonymous 2009年2月19日 16:04

>内容紹介に「シリーズスタート」といったことが全く書いてありませんでした
おもむろに表紙をめくって、絵師さんの自己紹介文を読むと……

Stella Author Profile Page 2009年2月19日 16:24

うわあ、こんなところに!
教えていただきありがとうございます。

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